プラセンタ注射

    歴史から見たプラセンタ療法

    プラセンタ注射

    プラセンタとは胎盤を意味します。
    この胎盤治療の歴史は古く、クレオパトラや楊貴妃、マリー・アントワネットが美容に愛用したとか、秦の始皇帝が不老不死を求めて使ったといわれています。ただしこれは文献に基づいた確かな史実ではありませんので真偽のほどは不明です。 実際の資料としてその名が登場するのは、739年編纂の「本草拾遺(ほんぞうしゅうい)」が最初であり、その後は明代の薬学書「本草綱目(ほんぞうこうもく)」や韓国の「東医宝鑑」などに「紫河車」という名前で紹介されています。ちなみにこの「東医宝鑑」は名著として名高く、かつて徳川吉宗が享保の改革を行ったとき医療制度の手本として用いたとされています。

    一方現在我々が手にしているプラセンタは、旧ソ連にて人の胎盤を皮下、筋肉内に埋没させる治療がスタートとなっています。
    この治療はさまざまな病気に非常に高い効果があるとして多くの報告がなされています。ただ、実際小手術が必要であり、感染等のリスクもありました。

    これを現在クリニックで使われる注射剤として開発したのが元久留米大学教授の稗田憲太郎先生、戦後栄養事情の悪い母子を救うために内服薬として開発したのが京都大学医学部三林隆吉教授でした。
    開発の祖の一人である三林先生は、開発するに至った理由をこのように述べています

    「驚くべき事実がある。それは私共が知れる限り哺乳動物は総じて自ら娩出した胎盤を全く本能的にその場で食べつくしていることである。しかも草食動物ですら、総じてこれを例外なく食い尽くしているという歴然たる事実は、単に畜生の浅ましさとして見過ごさるべき事柄ではない。私の眼にはむしろ、神秘の扉を開かすべく大自然が提示しているカギとして映じた。只人類のみがこざかしくもこの大自然の理法に背き、その恵みを拒み続けてきたものではないであろうか」

    世界におけるプラセンタ

    現在日本以上にプラセンタ療法が盛んなのがお隣韓国です。

    日本におけるプラセンタの第一人者吉田健太郎先生がお書きになった「胎盤力」の韓国翻訳本「胎盤の神秘」が2001年韓国で出版され、さらに、2003年「チャングムの誓い」が放映され、そこで胎盤が取り上げられたことから急速に広がっています。日本にはプラセンタ注射剤の製造会社は2社のみですが韓国では10社以上で生成され、大韓胎盤臨床研究会は350名以上の会員を擁しているようです。

    それ以外では台湾、東南アジアなどでも徐々に広がりつつあります。

    プラセンタ研究

    • これまでの諸研究から、更年期障害の緩和、創傷治癒の促進、抗炎症・抗酸化作用、免疫増強が明らかになっています。
    • 高麗大学大学院医学科 副教授Donggeun Sul博士はコメットアッセイなどを使用した実験結果より、プラセンタ注射剤が1)DNA損傷保護、2)抗酸化作用、3)抗炎症作用を持つことを証明しています。
    • インド 2001年、2003年の論文にて創傷治癒の促進、抗炎症性、抗血小板凝集能(つまり血液サラサラ)を認める論文が出ています。
    • スノーデン株式会社 高橋博士によれば、プラセンタの内服において、ネズミの実験により抗ストレス効果が示唆されました。また抗ストレス作用だけでなくデトックス効果、活性酸素消去作用などを有するメタロチオネインというタンパク質の増加も確認されています。

    その他、自律神経調整、肝臓強化、基礎代謝向上、免疫賦活なども報告されています。

    プラセンタはなぜ効くのか?

    ・各種栄養素
    プラセンタは三大栄養素(タンパク質・脂質・糖質)を筆頭に多種多様な栄養成分が宝石箱のようにぎっしりと詰め込まれており、これらによりさまざまな機能を発揮してくれます。

    ・胎盤が持つ力
    胎盤とは、母体が胎児を育てるうえで必要なものの、ほとんどすべてを供給するための臓器です。肝臓や肺、腎臓などの臓器が十分に機能していない胎児のために、各種臓器の代行をしてくれるオールラウンドプレーヤーなのです。 プラセンタには、古くなった細胞を新しい細胞に作り変える働きがありますので、美容から健康まで幅広い分野で活躍が期待されています。

    ・HGFを含めた「刺激素」の可能性
    胎盤そのものにはHGF(ヒト肝細胞増殖因子Hepatocyte growth factor)が多く含まれていますが、実際注射薬を製造する過程において、HGFは壊されてしまいます。
    ところが臨床では、あたかもHGFが存在するような、HGFなしには説明できない効果が見られます。
    そうしたことから考えると、プラセンタ注射薬には、分解されたHGFの断片(HGFの記憶?)が、「刺激素」として、何かを介しながら生理機能に刺激を与え、病変を治癒へと導くという機序があるのかもしれません。

    プラセンタの量・頻度・投与方法

    投与量と場所
    当院ではほとんどの場合3アンプルを臀部に打つことを基本としています。それ以外、疾患によっては私自身がツボ打ち注射を行います。ただし、患者さんによっては3アンプルでは効果が乏しく、場合によっては7アンプル打つ方もいらっしゃいます。
    私自身は7アンプルまでとしていますが、研究会では10アンプルまでは量依存で効果を発揮するとおっしゃる先生もいらっしゃいました。ツボ打ちする場合は、上半身は0.5~1ml、下半身は1~2mlずつ注射しています。

    注射針
    注射針は25ゲージ1インチを標準に場合によっては27ゲージの細いものを使います。

    注射後の注意

    プラセンタ注射は、薬剤をできるだけ長時間体内に留めることが大切であるため、注射の後もまないようにします。

    投与回数:治療は原則週1~2回です。

    治療計画

    最初の1~2か月はできるだけ間隔をあけずに通院してもらい、10回を治療効果の判定回数としています。その後は、状況を見ながら、効果維持の為に継続される場合が多いです。

    治療のやめ方

    プラセンタによって体調が戻った場合、いつ中止してもOKです。プラセンタにリバウンドはありません。なぜなら、一般薬剤のように特定の成分を補充するのではなく、必要な成分の体内生産を助けるように作用するので、中断によってゼロにならないためです。よって、いつ始めてもいつ止めても問題ありません。

    効果的な使い方

    痛み~日本人はとても慢性痛に悩まされています。製薬会社ムンディファーマが20歳以上の男女を対象にした大規模調査「pain in japan 2010」では、日本の成人4.4人に1人(全人口の22.5%)にあたる2315万人が何らかの痛みを訴えていると報告されていました。プラセンタの持つ抗炎症効果、神経修復作用、血行促進作用、温熱改善作用などのより痛みの改善が期待されます。場合によってはノイロトロピンなども併用します。

    更年期障害~もともと注射剤メルスモンは「更年期障害」として保険診療が可能です。ただし、保険内では1アンプルと量が少なく、また60歳以上では保険が認められません。私自身は基本的に3アンプルは投与必要最低量と考えています。なお、治療にあたって女性ホルモンが変化するのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、二重盲検の結果、女性ホルモンに変動は認めないことが分かっています。

    その他~アレルギー疾患(肥満細胞の脱顆粒抑制の可能性)など

    安全性

    プラセンタは人由来の胎盤を使用するため「特定生物由来製品」となります。よって安全面はとても大切な問題です。ただし、現在のところ、通常の西洋医療で使われるお薬よりもむしろ安全だと考えています。

    1. 当院で使用する注射製剤は承認医薬品である「メルスモン」であること
    2. メルスモンが開発されたのは1956年。その後50年間で重篤な副作用の報告はないこと
    3. 製造方法の安全性
      • 原料胎盤の選別~胎盤提供者は日本人のみであり、妊娠中にHBV,HCV,HIVなど必須の感染症検査において陰性が確認された安全なもののみを使用していること
      • 塩酸による加水分解~101度以上、1時間以上の加熱によりホルモン、タンパク質は分解されること
      • 加熱滅菌~121度、60分間の加熱及び121度、30分間の加熱によりウイルス、細菌は不活化されること

    以上よりまず心配なく摂取できると考えています。

    ただし、平成18年10月よりメルスモン注射を受けた人は献血が制限されています。これに関しては明らかな根拠はなく、献血不足の現在、早急の改正が切望されます。

    参考文献

    • 日本胎盤臨床研究会研究要覧 2008年 第2号
    • 日本胎盤臨床研究会研究要覧 2010年 第6号
    • 景山 司 (著), 吉田 健太郎 (監修, 監修) 「プラセンタ医療の現場から ―実践医14人の証言」 現在書林 2010
    • 景山 司 (著), 長瀬 眞彦 (監修) 「医師たちが選んだプラセンタ療法 体にやさしいが、しっかり効く胎盤パワーの秘密」 単行本(ソフトカバー) 現在書林 2017

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