糖質制限は本当に痩せるのか

   

今日はとてもきれいな秋晴れでしたね。幸せでした。

さて、糖質制限です。

なぜ、糖質制限があれほどダイエットでブームになったのか。それは2008年に発表されたこの論文が原因です。               

この論文は「脂質制限食」、「地中海式食」、「糖質制限食」の3つの食事療法におけるダイエット効果を調べたものでした。

そして24か月継続の結果、3つはそれぞれ減量が認められたのですが、中でも糖質制限食が最も減量効果が高かったと報告されたのです

ちょうどこのころ、世間は「小麦不健康説」の一大ブームでもありました。「小麦は食べるな! (ウイリアム・デイビス)」、「ジョコビッチの生まれ変わる食事 ノバク・ジョコビッチ」、「いつものパンがあなたを殺す: 脳を一生、老化させない食事 デイビッド パールマター」などの書物が世界的なベストセラーになり、健康市場においても糖質は排除される流れでした。その結果、「糖質制限食」は、ダイエット、そして健康市場の寵児としてもてはやされたのです。

さらに、糖質制限は都合の良いように解釈されました。それは、「ご飯や小麦などの炭水化物を食べなければ、肉や油物はいくらでも食べてもよい」という解釈です。これはダイエットを行う人にとっては夢のような指導でした。これまでダイエットといえば、「食べるのを我慢しなさい」という指導でした。肉はダメ、揚げ物はダメ、ケーキダメ、食べすぎはダメと、ダメダメダメのオンパレード。そこには常に「我慢」「苦難」が随伴し、ダイエットとは「苦しいものである」というイメージが先行していました。

それが突如「ご飯や小麦など糖質さえ食べなければその他はいくら食べてもよい」というダイエット方法が現れたのです。人々がそれに飛びつかないわけはありません。

そして、気が付けば、「お米」が肥満、健康にとっての悪の代表のようになっていったのです。

では、これについて、もう一度しっかりと考えてみましょう。

まずは、糖質制限食のスタートになったこの論文です。実は、現在、この論文には様々な問題が指摘されています。

問題1:今回炭水化物制限食を割り当てられた2割の人が1年以上継続できなかった~3つのダイエット法で炭水化物制限が一番多くの離脱者をだしたのだが、これは言い方をかえると、ダイエットに失敗した2割の人がカウントされていないということになる。これにより、本来だったら平均でもっと体重が増加するはずであったのに、見かけ上2糖質制限食が最も良い結果になってしまった可能性があること。

問題2:3群の中で炭水化物制限食群の総カロリーが最も低かった~きちんと調べてみると、糖質制限食を行っていたグループはもっとも総カロリーが少なかった。つまり、今回の減量効果が炭水化物制限の影響なのか、総カロリーの制限の影響なのかが不明であった。

 

そして、実はこの論文にはさらに続きがあります。実はこの3つの食事制限ダイエットを6年後まで継続調査されているのですが、その結果、3群共ほぼベースラインの体重に戻っており、長期効果の優位性はなかったことが指摘されているのです。

 

結局、糖質制限ダイエットのブームを作り出した論文は、現在では不備の多さが指摘されているのです。

よって、ここでもう少し制度の高い研究を紹介します。これは、2008年の調査の問題点を修正する形で、すべての制限食において総カロリー量を同じにし、1)炭水化物だけを減らす、2)蛋白質だけを減らす、3)脂質だけを減らす、の3つの制限における減量効果を調査しました。その結果、2年後の体重減少効果は、すべての制限食で有意差を認めませんでした。つまり、どの栄養素を制限するかは一切関係なく、これまで言われ続けたように総カロリー量のみがダイエットに有効であるという結論に達したのです。(Sacks FM, Bray GA, Carey VJ, et al. N Engl J Med. 2009; 360: 859-73. )

結局、いっぱい食べれば太るし、食べなければ痩せる、というこれまで同様当たり前の結果だったのです。

ちなみに、2018年、米国・スタンフォード大学においてさらに条件を綿密にして行われたダイエット試験もあったので報告しておきます。これは609人の人を、無作為に1)低脂肪グループ(炭水化物48% 脂肪29% 蛋白質21%)、2)低糖質グループ(炭水化物30% 脂肪45% 蛋白質23%)に分けて12か月後の体重減少度を見たものなのですが、低糖質グループの体重減少マイナス5.3kg、低糖質グループの体重減少マイナス6.0kgとどちらも同じ程度の体重減少でした。

なお、この結果は一見すると、糖質制限のほうが0.7㎏多く痩せているようにみえるかもしれませんが、この結果の信頼区間はマイナス0.2~+1.6kgのため、この0.7㎏の差は統計上有意差なし→脂肪を制限しても糖質を制限しても減量効果に差はない、という結論になっています。(ちょっと難しいが、統計学上はどちらも同じ程度のダイエット効果であるという結論になると思っていただければよいです)

つまり、2008年に初めて脚光を浴びた糖質制限食というダイエット方法はその後10年間の検証で、他の制限食と比べて特に有効な方法ではないと結論付けられたのです。結局、痩せるためには、何を食べないかではなく、どれくらい食べるかが重要なのです。

 

以上、本日は糖質制限がダイエットに最適な食事療法という根拠はないという説明をさせていただきました。

次回は、「糖質制限食の問題点」を科学的に考えたいと思います。





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