統合医療とは何か?こもれびの診療所ではどのように考え行っているのか

    統合医療とは

    統合医療

    「統合医療」は世間からも医学界からも誤解されることの多い医療です。
    多くの方が誤解していることの一つは、補完代替医療と統合医療を混同している点。もう一つは、統合医療と西洋医療は相反するものだと考えている点です。

    補完代替医療とは、現代の主流である西洋医療以外の医療の総称で、鍼灸や漢方、指圧などの東洋医療から、瞑想、サプリメント、医療行為ではあるが保険では認められていないオゾン療法や高濃度ビタミンC点滴療法などを含めたものを言います。
    これに対して統合医療とは、あくまでも西洋医療が基本です。これを基に、西洋医療のみでは困難な疾患や症状に対し、代替医療を補完することで、より良い方向に導こうと考える医療体系のことです。

    つまり西洋医療と統合医療とは、相反するものではなく、お互いが手を取り合い、協力し合う関係にあるのです。

    ただ、言葉の説明だけでは少しわかりにくいとも思いますので、こもれびの診療所ではどのように統合医療が行われているのか、「がん」を例にご説明したいと思います。

    がんで考える統合医療

    統合医療

    現在本屋に行けば、がんに関するさまざまな書籍が並んでいます。その本のなかには、妄信的に西洋医学的ながん治療を否定する本も存在します。
    「がんの標準治療(西洋医療)である手術、抗がん薬、放射線療法はすべて自己免疫を下げるから一切行ってはならない」などと主張する本です。
    この手の本に共通するのは、がんの種類、進行度、年齢などを一切考慮せずに「がん」をひとくくりに考え、西洋医学的治療のすべてを否定している点です。

    確かにがんの治療における標準治療は、副作用があり、自己免疫の低下は否めません。よって副作用回避のために、安全で体に優しい補完代替医療を求めたい気持ちはとても良く分かります。
    しかし、補完代替医療のみでのがん治癒率は不明なのに対して、早期がん(ステージ1程度)における標準治療は一般的に高い治癒率を示すことが多いです。
    したがって、早期がんの患者さんが補完代替療法のみで治療を希望する場合、私は西洋医療的視点から基本的に反対の立場をとります。

    しかし、補完代替療法を希望して統合医療クリニックの門をくぐる患者さんにとっては、「標準治療を行わないこと」こそが正義であり、「標準治療を行うこと」はすべて悪と思っている方も少なくありません。そのため、「なぜ標準治療を行わないのか」と医者が常識論をぶつけても、お互いの溝が大きくなりばかりで何も解決しません。
    この患者さんは、ただ目の前の医師を否定し、他の自然療法を推進しているまた別の治療家を探すだけです。その間にがんが悪化していく可能性も否定できないことを考えれば、患者さんのこのような行為はむしろ悪影響と言えます。

    よって私はまず、補完代替医療の一つ「傾聴」を行います。患者さんの思いを聴き、受け入れ、そして「受容」する心理療法です。西洋医療のみでは困難であった患者さんへの思いに対して、傾聴という代替医療で「補完」したわけです。

    早期がんにおける標準治療への説得

    「受容」により患者さんとの関係が確立された後、改めて標準治療の是非を考えてもらうため、以下の話を行います。

    がんの成り立ち

    統合医療

    まずお話するのはがんの成り立ちです。たとえば、1cm大で転移なしの場合、一般的には早期がんといわれます。この「早期」がんという言葉が患者さんに安心感を与え、補完代替療法のみで治療が可能なように錯覚させるのです。

    しかし、1cmのがんは成り立ちから考えれば早期とはいえません。

    がんは、私たちの体内にある正常細胞のコピーミスが始まりです。そこから修復機能や自己免疫などの監視をくぐり抜け、増殖を繰り返した細胞ががんとして成長していきます。ただし、そのスピードは速くありません。このコピーミスから始まったがんが1cmの大きさに成長するまでには、細胞分裂にして約30回、年数にして10 年以上の月日がかかっているといわれます。さらに、この1cmのがんの塊のなかには10億個ものがん細胞がひしめき合っています。つまり、1cmのがんはこれまでの経過を考えると初期でもなければ小さな塊でもありません。

    このことをお伝えした上で、次のお話をしています。
    「今あなたの中にあるがんは、これまで自己免疫を10年以上くぐり抜けて大きくなったものです。そう考えると、自己免疫だけでこれに打ち勝つことは、非常に困難であると考えています。また、がんが1cmになるには30回の分裂が必要でしたが、今後はたった5、6回の分裂で4倍の大きさになります。こう考えると、けっして小さくはないがんの塊に対して補完代替医療のみで対応するのではなく、標準治療を行いながら、自己免疫を高める補完代替療法を加えるという方法が1つの選択肢にならないでしょうか。

    以上の説明をした後、現在の標準治療における5年生存率の話をします。
    たとえば乳がんでは、ステージIにおいての5年生存率が国立がん研究センターにおける統計によると95.3%です1)。これに対して補完代替医療のみにおける5年生存率のデータは存在しません。
    この統計学的データを考慮すれば、西洋医学的な治癒率を無視して補完代替医療のみで治療を行うことは積極的に進められないと考えられます。

    統合医療

    それでも標準治療を受け入れられない場合

    がんの成り立ちと治癒率の説明をしても、やはり標準治療を否定し、補完代替療法のみでの治療を希望する方がいます。その場合でも、基本的に「受容」の姿勢を崩さず、患者さんの思いを受け止めながら、必要に応じた治療を開始します。

    ただし、補完代替医療のみの治療を選択したとしても、定期検査を必ず受けてもらうこと、そして悪化の所見があれば、標準治療を治療選択に必ず入れていただくことを約束していただき、最後にこうお伝えします。

    「現在、私たちは医学の発達した21世紀に生きています。ならば、この時代にあるよい治療を否定せずに、西洋医学的治療と補完代替医療の良い所をすべて合わせた統合医療で、あなたにとって一番良い方法を選択するのは非常に有用だと思います。」

    補完代替医療の世界的広がり

    統合医療

    改めて統合医療について考えてみます。統合医療とは、西洋医療とそれを補完するその他の治療であるというお話はしました。西洋医療についての説明は不要と思うので、ここでは補完代替医療について考えてみたいと思います。

    補完代替医療は英語でcomplementary & alternative medicineと表記され、略して「CAM」と呼ばれます。
    世界におけるCAMの広がりは大きく、アメリカではCAM研究のために年間数百億円もの予算が組まれます。またドイツでは、国家試験にCAMの問題が出ますし、スイスでは国民投票によりCAMが国の医療として認められました。アジア圏でも同様で、中国や韓国、インドなどでは、西洋医療と同様に伝統医療が尊重され、CAMの治療医は西洋医療の医師と同様の地位を得ています。このように世界中で西洋医療だけでなくCAM も取り入れ,両者をうまく融合させた「統合医療」 を実践しています。

    これに対して日本は、明治時代に伝統医療が全否定されて以来、西洋医療以外は医療として認めないという風習が今も続いています。
    しかし実際はどうでしょうか。少し古いですが厚生労働省発表の「我が国におけるがんの代替療法に関する研究 (2001~2002)」によれば、実に44.6%の人が1種類以上の代替医療を利用していました。現在はさらに増加していることが予想されます。
    つまり、日本国民は、「統合医療」を望んでいるのではないでしょうか。

    統合医療から終末期がんを考える

    統合医療

    CAMを求めるがん患者さんにおいては、早期がんの方はまれで、圧倒的に終末期がん(がんが治る可能性がなく、数か月~半年程度で死を迎えると予想される状態のこと)の方がほとんどです。理由は明白で、末期がんの方は通常、主治医よりがん治療の目的で行われる西洋医療(手術、抗がん剤治療、放射線治療など)での治癒が望めないと宣言されたからです。

    そしてその宣言は,時に辛錬です。
    「もうできる治療はないからホスピスに行ってくれ。」
    という突然の死の宣告に匹敵する言葉。
    「抗がん薬が嫌ならもうこの病院に来る必要はない。」
    これ以上苦しい治療をしたくない、最後は家族と笑って過ごしたい、という思いは当然のことですが、それを受け入れてくれない医師も少なくありません。
    このようなやりとりを経て主治医との信頼関係を失ったがん患者さんたちは、「がん難民」として新しい治療と医師を求めてさまよい歩くことになります。はっきりした数字はわかりませんが、一説によると、その数は100万人にも上るといわれています2)。

    このがん難民を1人でも減らす方法に、統合医療という道があると考えます。
    私が統合医療を学んだ「統合医療塾」の塾長であり恩師の平成帝京大学川嶋朗教授は、統合医療を次のように定義しています。
    「統合医療とは、個人の年齢や性別、性格、生活環境、さらに個人が人生をどう歩み、どう死んでいくかまで考え、西洋医療、補完代替医療を問わず、あらゆる療法からその個人に合ったものをみつけ、提供する受診者主導型医療である。」

    この言葉から考えれば、「西洋医療を代替医療で補完したものが統合医療である」という一般的定義は、本来の統合医療の一部分しか表していないことになります。本当の統合医療とは、「受診者主導型医療」であり、そこから考えれば終末期がんの患者さんが選択した「抗がん薬は使わない」という選択も、「補完代替医療」という挑戦も、「死を受け入れる」という覚悟も、すべて統合医療的には正しい、ということになります。

    CAMの問題点と統合医療という希望

    ただし統合医療の中核をなすCAMの問題点が多いのも事実です。無規制で販売されている健康食品、無資格の代替療法治療家に伴う症状の悪化など、トラブルは絶えません。また統計学的な数字、有効成分や作用機序など証明されていないものが多いことも、CAMが敬遠される理由でしょう。
    ただし、CAMを西洋医学的手法のみで考えるのは困難であることも知っておいてほしいと思います。西洋医学はもともと分析科学的な手法を用いており、病気の病態解明とそれに伴う治療法の開発、つまり「人を治す」のではなく、「病気を治す」ことに重点を置いたものです。これに対してCAMは「患者一人一人の個」が対象であり、病気ではなく「患者一人一人の身体、心、社会、魂を含めた全人的な苦しみ」が対象です。よって、CAMを西洋医学的手法で分析するのは、そもそも治療対象が違うために困難なのです。

    もちろんEBM(Evidence-based Medicine=根拠に基づく医療)が不要というわけではなく、今後CAMのエビデンスをできる限り構築する努力は必要でしょう。ただしそこに固執しすぎず、目の前の一人の患者さんの病状、そして思いに心を寄り添わせ、その個人にとって最高の幸せとは何かを一緒に懸命に考えることが重要だと思います。川嶋先生が定義したように、本来の統合医療とはNBM(Narrative-Based Medicine=患者が抱える問題を身体的、精神・心理的、社会的など全人的に把握し解決方法を模索する臨床手法)を用いて行われるべきものと考えます。
    西洋医学の弱点をCAMで補いながら、それぞれの利点を生かし、医師も患者も幸せになる医療。これが加藤の求める統合医療であり、こもれびの診療所がそのような場所であるように今後もスタッフ一丸となり、努力し続けたいと思っています。

    あなたが、あなたの大切な人たちが、生きとし生けるものが
    幸せでありますように
    心身ともに健康で元気でありますように
    喜びがありますように
    願いが叶いますように
    穏やかに過ごせますように

    (慈悲の瞑想より)

    1)「がん診療連携拠点病院等院内がん登録2012年3年生存率、2009年から10年5年生存率公表」国立がん研究センター(2019年)
    https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0808_1/index.html#h-2
    (2021年5月31日閲覧)
    2)水上治 日本一わかりやすいがんの教科書 第1版 PHP研究所 東京 54-56 2010
    3)加藤直哉 がん患者が代替療法を希望している場合にどう対処するか 治療別冊 Vol.94, No.4増刊 656-659 2012 

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