低周波通電療法

    低周波通電療法とは?

    低周波治療とは何か?

    低周波治療は、電気刺激を用いた物理療法の一種です。体の特定の部位に微弱な電流を流すことで、痛みの緩和や筋肉の回復を促します。この治療法は、自然治癒力を高めるサポートとして広く利用されており、薬を使わずに症状を改善できるのが特徴です。

    低周波とは、0.1~1000Hz(ヘルツ)の周波数を指します。例えば、1Hzなら1秒間に電気刺激が1回、1000Hzならば、その1000倍の電気刺激を与えることが可能です。
    低周波通電療法では、周波数に加え、電流の強弱、直流・交流、1Hzあたりの刺激の頻度など、病態に応じて、その組み合わせを変えて使用します。

     

    生体と電気刺激

    生体と電気は深く関わっていて、私たちの生命活動は電気信号によって成り立っているといっても過言ではありません。痛みを感じる神経や、体を動かす筋肉には、低い周波数の電流に反応する性質があります。
    この性質を利用して、外部から体に電流を流すことで神経や筋肉に働きかけます。体に電気刺激を入れて、大丈夫なの?とご不安に思うかもしれませんが、不調がある箇所を見極めながら、適切な周波数、適切な電流量を調整して通電させますので、ご安心ください。

    低周波治療がどこに作用し、どのような効果を発揮するのか

    低周波治療は以下の3つのレベルで作用します:

    1. 末梢レベル(筋肉・関節・皮膚など)
      低周波の刺激は、筋肉の微細な収縮を引き起こし、血流を促進します。これにより、疲労物質や炎症性物質の排出が進み、痛みやこわばりが軽減されます。また、筋肉を緩めることで運動機能の回復にも役立ちます。

    2. 脊髄レベル(神経・自律神経)
      低周波は、痛みを伝える神経(Aδ繊維やC繊維)の活動を抑制します。これにより、痛みを感じる信号が脳に届きにくくなり、痛みが和らぎます。さらに、自律神経を調整することで、内臓機能や血流の改善も期待されます。

    3. 脳レベル(神経伝達物質・ホルモン)
      脳内に鎮痛作用のあるβエンドルフィン(幸せホルモン)が分泌されることで、慢性的な痛みやストレスが緩和されます。また、神経伝達物質のバランスが整うため、不安や抑うつなどのメンタル面の改善効果も見込めます。

    低周波通電療法は何に効く?

    低周波通電療法が最も得意とする疾患は、神経が原因の疾患です。神経由来の疾患は多岐にわたり、低周波通電療法では、急性・慢性疼痛から、筋力強化、細胞の組織修復と、活躍してくれます。

    低周波通電療法には、大きく3つの効果があります。

    • 鎮痛効果
    • 機能改善・向上効果
    • 組織修復効果

    1)鎮痛効果

    急性・慢性疼痛では、それぞれ交感神経・副交感神経を活発に働かせることで痛みを抑制し、内因性鎮痛物質を増加させることがわかっています。また、痺れの症状では、主にその原因となる筋肉を緩めて神経や血行障害を改善させます。低周波における鎮痛効果としては以下の3つがあげられます。

    • 痛みの信号を抑える
      低周波治療は、痛みの信号を脳に伝える神経線維(Aδ繊維やC繊維)に作用します。これらの神経線維の活動を抑制することで、痛みが感じにくくなります。

    • ゲートコントロール理論
      低周波刺激が皮膚や浅い層の神経を活性化することで、痛み信号の通過をブロック(ゲートを閉じる)します。この作用は、神経が関わる慢性疼痛や神経痛に特に有効です。

    • βエンドルフィンの分泌
      低周波の刺激は脳内で鎮痛ホルモン(βエンドルフィン)の分泌を促し、痛みの感覚を和らげます。これにより、神経性の痛みやストレスに関連する不快感を軽減します。

    2)機能改善・向上効果

    脳卒中後遺症では、片麻痺による廃用性萎縮の予防や筋肉運動の回復を目標に通電療法を活用しています。運動神経を刺激することは、脳の可塑性*を惹起させることに繋がります。つまり、脳神経細胞の「感じる」「動かす」領域において、新たなネットワーク構築を助けます。この治療と併せて毎日の自主課題を反復することで、一過性ではなく持続的なネットワークを構築し、機能回復・機能向上効果を引き出します。

    3)組織修復効果

    細胞の組織修復過程においても、電気の力が関係してきます。正常な細胞では、細胞の内外でプラス電子とマイナス電子がバランスを保っていますが、何らかの原因で細胞が傷つくと、このバランスが崩れます。その際、損傷電流と言われる電流が細胞周囲に流れることで、バランスを取ろうとします。電気刺激は損傷電流の流れを促進させることで、傷ついた細胞修復の働きを助けるので、手術痕や捻挫などの治療としても使用しています。

     

     

    周波数による違い:筋肉への効果

    1. 低周波(1~10Hz)

      • 低周波は神経を直接刺激し、特定の筋繊維を収縮させることで筋肉がゆっくりと収縮・弛緩を繰り返します。
      • この刺激は筋肉のポンプ作用を高め、血流促進や疲労物質の除去、リラクゼーション効果を生みます。また組織修復を図ります。
      • 主に効果が高い領域: 血流改善、筋肉の弛緩、鎮痛作用(βエンドルフィン分泌)。
    2. 中周波(10~50Hz)

      • 中周波は神経の伝達効率が高まり、筋肉を持続的に収縮させます。これにより筋肉強化や、持続的なコリの解消に役立ちます。
      • 特に肩こりや慢性的な筋肉の緊張に効果的です。
      • 主に効果が高い領域: 筋肉の収縮を伴うリハビリや運動器系の回復。
    3. 高周波(50Hz以上)

      • 高周波では神経の深部に作用することで、筋肉が連続的に収縮しやすくなりますが、感覚神経への作用も強くなるため、筋肉よりも神経性の痛み抑制がメインとなり、急性期の痛みに適しているとされます。
      • 一般的には「しびれ」や「神経痛」の抑制に使われることが多いです。
      • 主に効果が高い領域: 神経性疼痛、急性の痛みの抑制。

    なぜ筋肉の効果に周波数の違いが出るのか?

    • 筋肉の収縮は神経を介して発生する
      電気刺激がまず神経を刺激し、その神経が筋肉に信号を送ることで収縮が起こります。周波数が変化すると、神経が発火する頻度や深さが変わり、それが筋肉の反応の仕方に影響を与えるのです。

    • 低周波 vs 中周波の違い
      低周波は筋肉をゆっくりと収縮させ、ポンプ作用を高めるのに対し、中周波は筋肉を持続的に収縮させ、より強力な運動効果を生み出します。


    結論

    電気刺激の効果は、基本的に神経への作用が主であるものの、周波数によって筋肉の反応が変わります。そのため、周波数を調整することで筋肉への効果を「高くする」ことが可能です。

    • 低周波はリラクゼーションや血流改善に。
    • 中周波は筋力トレーニングや慢性筋肉痛の解消に。
    • 高周波は急性期の神経性の痛みの制御に。

     

    注意点

    低周波通電療法では、パッドまたは鍼を通して通電させます。鍼を介した通電時には、鍼治療や点滴治療と同様に血管の損傷、神経の損傷、感染のリスクが挙げられます。刺鍼時には解剖的知識を念頭に最大限注意しています。また、感染対策として、消毒、手袋装着など徹底して行っています。

     

    低周波通電療法の禁忌

    • ペースメーカー埋め込みのある方
    • 高度な不整脈
    • 発熱のある方
    • 妊娠中の方

     

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