注目の治療方法「酪酸注腸」

      2023/12/14

21世紀になり「腸内細菌叢」「腸内フローラ」「腸内善玉菌」など、腸内細菌のことが注目されるようになりました。
「ヨーグルト内の〇〇菌がアレルギーを抑制する」、「インフルエンザ感染率を下げる」、「痩せ菌投与すると痩せやすくなる」などの言葉を見た方も多いと思います。
そのような中にあって、2010年以降、特に注目をされるようになったのは「酪酸」です。
酪酸とは「酪酸菌」が食物繊維を発酵分解して作り出す 「短鎖脂肪酸」の一種です。これまで「酪酸菌をとると体に非常に有益なことが起こる」ということは数々証明されていましたが、その理由が、酪酸菌そのものではなく、酪酸菌が作り出す「短鎖脂肪酸」であることが分かってきました。
酪酸菌が作り出す短鎖脂肪酸には、「酪酸」「プロピオン酸」「酢酸」があります。それぞれ有益なのですが、中でも「酪酸」は別格の素晴らしい効果があります。ここでは、その効果を論文ベースで紹介させていただきます。

酪酸の効果

  1. 大腸粘膜上皮細胞のエネルギー源:上皮細胞はエネルギーを血液に頼らず、酪酸に依存(大腸粘膜上皮エネルギーの約60~80%は酪酸)しており、またバリア機能維持に使われる(Litvak Y, et al. 2018
  2. 腸免疫力IgA抗体を増やす~大腸粘膜上皮細胞で作られるIgA抗体増加し、外敵から腸を守る
  3. 活性酸素除去:酪酸はKreap1-Nrf2系を刺激→抗酸化システム(グルタチオン、へムオキシゲナーゼ1など)を誘導→酸化ストレスから腸粘膜を守る
  4. 腸内酸素を消費し、酸素を利用する悪玉菌を減らす:酪酸によるエネルギー産生時酸素を消費する→酸素を好む好気性菌である悪玉菌減少+酸素を必要としない嫌気性菌の善玉菌増加。
  5. コロナ後遺症患者後遺症予防:酪酸不足はコロナ後遺症が多いと報告(Zhang F, et al. 2021)
  6. 制御性T細胞の分化促進し免疫の暴走を止める:酪酸→樹状細胞受容体と結合→制御性T細胞分化促進→免疫寛容(tan J, et al. 2016)。それにより膠原病、アレルギー体質を改善。実際・膠原病・潰瘍性大腸炎の人は酪酸が少ない・ミルク/卵アレルギーに酪酸が少ない、などが報告。(Zhang J, et al. 2017他)。またこれにより抗炎症効果発揮。
  7. B細胞自己抗体産生を抑制~SLEにおいて自己抗体を抑制し症状改善(Sanchez HN, et al. 2020)、関節リウマチ改善(Rosser EC, et al. 2020
  8. マクロファージ(体内に侵入した細菌やウイルスを消化・殺菌する貪食細胞)改善作用:
    ・大腸粘膜マクロファージから炎症抑制サイトカインIL-10 を強力に誘導して大腸炎症を抑制(Hayashi A, et al. 2013)
    ・M2型マクロファージ分化促進作用により創傷治癒促進、腸管炎症促進作用が報告(Ji J, et al. 2016)。
    ・マクロファージの抗菌活性を高める遺伝子をONにする(Schulthess J, et al.2019)
  9. 血糖低下作用改善:酪酸→腸管内分泌細胞GPR43受容体細胞刺激→GLP-1放出→胃(排出抑制~吐き気なども改善)・脳(食欲低下)・心(心保護作用)・脂肪(脂肪燃焼)・肝(脂肪肝抑制)・膵臓(インスリン増加し血糖値低下)(Jia L, et al. 2017 他)
  10. がん抑制遺伝子を活性化しがん予防に関与
    ・酪酸は遺伝子の発現調節に直接関与し、標的がん遺伝子の発現を抑制(Archer SY, et al. 1998)
    ・アポトーシス誘導、細胞増殖抑制、血管新生の抑制など(Fung KY, et al.2012)
    ・酪酸(クロストリジウム・ブチリカム=ミヤBM)が、大腸がん発生を抑制する効果が報告。また抗がん剤効果を高め、がん全生存率上昇の報告
  11. グアーガムとの併用:グアーガムは短鎖脂肪酸の中で特に酪酸を多く産生するこら、排便促進+抗炎症作用や感染予防効果が期待。水溶性食物繊維投与にてインフルエンザ感染抑制も報告(Trompette A, 2018)
  12. 脳の改善、成長:脳海馬や前頭葉で「BDNF(脳由来神経栄養因子)」を増加させ、脳の成長、健康維持、抗うつ作用を発揮(Tian T, et al. 2019)。ベルギーにて酪酸によりうつ病低下の報告(Valles-Colomer, et al.201988)。日本でも抗うつ薬に酪酸菌併用でうつ病の有効率が70%、寛解率35%アップの報告(Miyaoka T et al. 2018
  13. 過敏性腸症候群に効果:
    ・酪酸:ムチン産生、タイトジャンクションを高め腸が改善
    ・プロピオン酸:大腸の粘膜から吸収され筋肉や肝臓、腎臓などのエネルギー源として利用
    ・酢酸:大腸環境を弱酸性に維持し悪玉菌増殖抑制。なお酢酸発生菌は水素をエネルギー源とする
  14. SIBOでもOK:酪酸はガスを発生させない

    このように酪酸は、論文ベースで非常に多くのメリットが報告されています。

●酪酸摂取方法

これまで行われていた方法は「酪酸を産生する酪酸菌を摂取する」という方法です。その代表が、医療機関で処方される酪酸菌(商品名:ミヤBM)です。飲んだことのあるかたも多いのではないでしょうか。ただ、これには3点問題があります。

1)酪酸菌を腸に入れても、それが腸内で定着するとは限らない
2)定着したとしても、酪酸菌が活動しにくい環境であると、酪酸を作る出すことができない(酪酸菌を飲むような方は腸の状態が基本悪い方が多い)
3)保険で出される量がその人にとって少なすぎる

なのでミヤBMを飲んでも効く人も確かにいるのですが、効果を実感できないかたも少なくない、ということになります。
そこで近年考えられているのが、”外部で酪酸菌を培養し、酪酸菌が産生した酪酸を直接摂取する”、という方法です。
これは「酪酸をとる」という目的に対しては、もっとも効率の良い方法です。
ただし経口投与された酪酸は人にとって最高の栄養物質であるため、小腸でほとんど吸収される、つまり大腸には届かない、ということにもなります。

当院には、とにかくお腹の問題を抱えている人(大腸がん・潰瘍性大腸炎・IBS・SIBO・SIFOなど)が多く来られます。これらの患者様の場合、酪酸を届けたいのは”大腸”です。しかし経口摂取ではその大腸まで酪酸がとど来ない。

そこで考え出したのが酪酸を直接大腸に注腸する方法です。

当院で行っている「善玉菌群移植療法」に「酪酸」をプラスさせることで、直接大腸内に善玉菌(酪酸菌を含む)と酪酸を送り込むことで一気に腸管内細菌叢を最高の状態に導く、という方法です。

この方法はとてもうまくいきました。

私自身、ストレスがかかったり、暴飲暴食したあと、IBS様の大腸過敏の腹痛が出るのですが、このような時に酪酸を入れると、本当にぴたりとこの腸の感覚過敏が治まりました。
また患者様たちも、これまで善玉菌群移植をやったことがあるかたに酪酸をプラスすると、同じように「さらにお腹良い感じです」とおっしゃってくれました。

「酪酸を直接腸内に入れる」という治療方法は、日本はもちろん世界でもほとんど行われていないと思います。


お腹で困っている方はぜひ「酪酸注腸」もご検討ください。

ただ、なかなかこの方法がハードルは高いと思われますし、地理的にこもれびの診療所まで来ることが難しい方も多いでしょう。
その場合は以下の対策で、腸内に酪酸を増やし、快適な腸ライフを送ってもらいたいと思います。

●自分でできる酪酸対策

①酪酸菌を摂取する
病院ではミヤBMとして処方されています。もし処方してもらえたら処方してもらってください。
また市販でも購入可能です。
ミヤBM錠の有効成分は、善玉菌である「酪酸菌」のMIYAIRI株で、「宮入菌」です。そのような商品を探してみてください。
繰り返しになりますが酪酸を作り出せるのは酢酸菌のみで、乳酸菌やビフィズス菌は作れませんので、酪酸を増やすという目的の場合はかからず酪酸菌を摂取してください。

②酪酸菌の餌である水溶性食物繊維をとる
酪酸菌を摂取するとき、同時に酪酸菌が喜ぶ食べ物も一緒に取るようにしてください。
1)海藻類:ワカメ 昆布 ヒジキ 海苔など
2)穀類:もち麦 ライ麦パン 玄米など
3)野菜類:長いも ごぼう トマト 大根 人参 きのこ類 ブロッコリ、ピーマン 切り干し大根 蓮根 ほうれん草など
4)イヌリンの多い食べ物:玉ねぎ、菊芋、にんにくなど
5)果物:アボカド りんご プルーン バナナなど

③運動
息が上がるようなやや強度の高い運動30分、週3回、6週続けて行うと酪酸菌増えると報告されています。(Katagiri R,et al. 2020

酪酸菌、酪酸で快適腸ライフを送ってほしいと願っています。

注意点:
1)本治療は医薬品医療検査等法上の承認を得ていないため、医療保険制度は使用できません。自費診療となります。
2)当院の酪酸は、ハイアマウント者の特許製法で作られたものを、日本のサイドランド株式会社を通じて購入し使用しています。
3)料金は、以下のようになります。
・酪酸注腸(善玉菌併用あり)5500円
・酪酸注腸(善玉菌併用なし)11000円
4)副作用:現在のところ、重大な副作用は認められておりません。軽微なものとして、注腸後、数日下痢になる、または逆に便秘気味になる、ということはありますが数日で落ち着いてきます。なお、腸閉塞などのリスクがあり場合は行うことはできません。

 

 



医療法人社団徳風会 こもれびの診療所:https://komorebi-shinryojo.com/

電話:03-6806-5457
住所:〒116-0003 東京都荒川区南千住5-21-7-2F(旧日下診療所)
最寄り駅:南千住駅より 徒歩 5 分

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