養腎降濁湯
2023/12/07
養腎降濁湯とは
私が指導を受けた漢方医・江部洋一郎先生(故人)が考案、2004年に慢性腎不全(慢性腎炎、痛風腎、糖尿病性腎症、多発性腎嚢胞など)の治療薬として発表された漢方薬です。
現代医学における慢性腎不全の治療目標は、病気の進行を食い止め、人工透析への移行を遅らせることにあります。ところが江部先生は、養腎降濁湯を用いた治療で、慢性腎不全の改善例を多数報告され、中には、治療開始後より3年を経過してもクレアチニンの値が上昇せず、むしろやや低下した症例、血液透析の準備段階にありながら1年以上にわたって進行していない症例、すでに血液透析中であるにもかかわらず、尿量増加とクレアチニン値の改善が見られ、透析回数を減らすことが出来た症例などなどが含まれています。
- 中医学における「腎」のとらえ方、治し方
漢方医学の「腎」とは、生命エネルギーである「気」を貯蔵して、成長、発育、生殖の基礎となる器官を指します。加齢が進むにつれ、腎に貯蔵されている気が減少することによって、全身の老化現象が発現すると考えます。
慢性腎不全は、高齢化社会に伴って増加しています。漢方医学的には、加齢による「腎気」の消耗が原因の一つと考えられるのです。
腎には、水分を管理して尿を排出する機能もあり、この点では腎臓の機能を含む概念といえます。養腎降濁湯とは、腎を養い、腎の機能を改善することによって、「濁」(不要な成分)を降ろして排出させる、という処方です。
中医学的には慢性腎不全の状態を「血中の濁の過剰」と捉え、この過剰な濁を「血中の過剰な水」を下降させる経路に乗せて去るのが、腎不全に対する漢方治療の考え方です。したがって、養腎降濁湯は、芍薬、黄耆、山帰来、ヒカイなど、水をさばくと同時に過剰な水と濁の下降を強化する生薬の組み合わせで処方が構成されています。
- 透析による皮膚のかゆみ倦怠感、むくみにも有効
クレアチニン値1.5mg/dl未満である軽度の慢性腎不全の場合、養腎降濁湯を1~2ヵ月服用することで、クレアチニン値や尿素窒素が基準値まで改善することもあります。
しかし、血中クレアチニン値が高いほど、効果が出るまでに時間がかかります。クレアチニン値が2mg/dl以上になると、数値の改善は難しくなりますが、悪化を防ぎ、現状を維持する作用はあります。
透析中の患者さんにも有効ですが、腎機能の回復は期待できません。透析による皮膚のかゆみ、倦怠感、食欲低下、むくみ、肌の黒ずみなどの改善を期待して投与します。
- 養腎降濁湯の基本はあるが、同じではない
養腎降濁湯は基本的処方はありますが、漢方医が患者さんをあらゆる角度から診察し、そのときの状態に合わせて生薬を加減することで、初めて効果を発揮します。
当院でも全身の状態や症状、病態によって、先に挙げた生薬の量を加減したり、ほかの生薬を加えたりして調節していきます。よって、その人の「症」や「検査結果」により、中身は少しずつことなります。
- 注意点
- 腎不全では、カリウムが尿から排泄されず、血中にカリウムが多くなります。血中のカリウムの要注意値は5以上 危険値6.0です。養腎降濁湯にはカリウムを上昇させる甘草などが入っているため、カリウム高値の場合は投与を控えさせていただきます。
- 黄耆がこの治療のかなめなのですが、人により発疹が出現することがあります。この場合、晋耆で代用します。
- クレメジンなどの吸着剤を同時に服用すると養腎降濁湯の効果が現れなくなります。この場合、クレメジンとは2時間以上空けて服用する必要があります。
- クレアチニン値が4~5mg/dLを超えている方は、透析導入を数年遅らせる可能性はありますが、養腎降濁湯単独では透析を回避させることは難しいです。
- 蛋白尿は基本改善しません。
- 腎性貧血(エリスロポイエチン不足)に対しては効果がありません。
- 本治療は医薬品医療機器等法上の承認を得ていない漢方薬を使用し、また当院が保険診療登録を行っていないため、医療保険制度は使用できず、自費診療となります。
●料金:
個人に合わせた処方を行うため、変動がありますが、大体1か月あたり8,000~15,000程度となります。
江部先生は私の大好きな先生であり、本当に人格者でした。
その日本人の誇りである江部先生が作ってくださった養腎降濁湯、ぜひ、これからも受け継いでいきたいと思います。
医療法人社団徳風会 こもれびの診療所:https://komorebi-shinryojo.com/
電話:03-6806-5457
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