慢性疲労症候群(ME/CFS)の労作後症状増悪(PEM・クラッシュ)を防ぐ生活の工夫とペーシング

      2026/09/08

はじめに:「その場ではできた」のに、翌日動けなくなるのはなぜ?

「少し散歩しただけなのに、翌日から数日間ベッドから起き上がれない」

「人と楽しくお茶をしただけなのに、激しい頭痛と全身の痛みに襲われる」

「少し頭を使っただけで、頭に霧がかかったようになり言葉が出てこない(ブレインフォグ)」

慢性疲労症候群(ME/CFS)を抱える方の多くが、このような急激な体調の悪化を経験されています

この現象はPEM(労作後症状増悪:Post-Exertional Malaise)、または「クラッシュ」と呼ばれます

PEMの大きな特徴は、「活動中やすぐ後だけでなく、数時間後〜翌日以降に遅れて現れ、数日〜数週間続いてしまう」という点です

「その場ではできた」からといって、「体が耐えられた」わけではありません

でも、クラッシュしてしまう自分を「また失敗してしまった」と責めないでください

PEMの仕組みを知り、自分のエネルギーの使い方(ペーシング)を身につけることで、生活の波を少しずつ小さくしていくことができます

今回は、当院で患者さんにお伝えしている「PEM・クラッシュを防ぐための具体的な対策」を分かりやすくまとめました。

1. エネルギーは「3つの別々の財布」で考える

PEMを引き起こす負荷は、筋トレやランニングのような「運動」だけではありません

私たちの日常には、大きく分けて3つの負荷が存在します

  1. 身体的負荷:歩く、立つ、入浴、家事、移動など

  2. 認知的負荷:PC・スマホ、読書、仕事・勉強、判断、マルチタスクなど

  3. 社会的・対人的負荷:会話、会食、気遣い、大人数、感情が揺れる出来事など

大切なのは、これらを「別々の財布」として捉えることです

「体は比較的動かせるけれど、人と話すとひどく消耗する人」もいれば、「人と会うのは平気だけれど、PC作業をすると悪化する人」もいます

さらに注意したいのが「合計の負荷」です

「少しの散歩」だけ、「少しのPC作業」だけなら耐えられても、同じ日に重なるとクラッシュの引き金になります

天候や気圧変動、睡眠不足なども負荷としてカウントし、「1日の合計」を意識してみましょう

2. 「クラッシュの早期サイン」を見逃さない

クラッシュは突然起きるように見えて、実は前兆があります

ご自身の身体や頭が出す小さなサインに早めに気づくことが大切です

  • 身体のサイン:急に体が重い、足が鉛のよう、寒気、心拍数が上がる、立つのが急につらい

  • 脳・自律神経のサイン:言葉が出てこない、文章が読めない、音や光が急にしんどい、妙に気持ちが高揚して止められない

「このサインが出たら、何があっても横になって刺激を減らす」というマイルールを1〜2個決めておくのがおすすめです

3. 日常生活でできる具体的な対策

① 身体的負荷の工夫

  • 「座る」「頼る」を徹底する:座ってできる家事は座り、シャワーチェアや歩行補助具も「エネルギーを温存する賢い道具」として活用しましょう

  • 小分けにする:「10分連続」より「2〜3分動いて1回休憩」を繰り返します

  • 心拍数の目安:活動時の心拍数の上限として、一般的に「(220 − 年齢)× 0.5〜0.6」が一つの参考になります(例:40歳なら90〜108回/分)。まずは低めの数値を目安にし、心拍が上がり切る前に動作をゆっくりにしたり休憩を挟みましょう。(※心臓の持病や自律神経症状がある方は、必ず主治医にご相談ください

② 認知的負荷(脳の疲労)の工夫

  • 画面から離れる時間を決める:タイマーを使い、15〜20分ごとに画面から目を離します

  • 「脳を休める休憩」をとる:休憩時間にスマホや動画を見てしまうと、脳は休まりません。目を閉じ、静かな部屋で横になる「真の休息」をとりましょう

  • 一度に一つだけ:通知をオフにし、メモや音声入力を活用して「頭の中で覚えておく作業」を減らします

③ 社会的・対人的負荷の工夫

  • 「疲れる前」に切り上げる:余力が残っているうちに解散・終了します。「体調管理のため、〇時には失礼します」と最初から伝えておくのも有効です

  • 前後のスケジュールを空ける:人と会う予定がある日は、前後の家事や外出などの予定を減らして合計負荷を抑えます

  • 断る・途中で抜けるのも「治療」:お付き合いを制限するのは不誠実なことではなく、体を守るための立派な治療の一環です

4. こもれび式「ペーシング」の基本原則

ペーシングとは、活動と休息のバランスを取りながら、症状の悪化を防ぐセルフケア技術です

  1. 安全域を知る

    「できる限界」ではなく、「これくらいなら翌日悪化しない」という量の50〜70%を普段の活動量にします

  2. 先に休む

    疲れてから倒れ込むのではなく、活動の「前」や「途中」に休憩を組み込みます

  3. 「調子が良い日」こそ気をつける(最重要ルール)

    体調が良い日は「今までの分を取り戻そう」と動きすぎてしまいがちです。しかし、それが大きなクラッシュを引き起こします調子が良い日こそ普段の安全域を守ることが、回復への近道です

5. もしクラッシュしてしまったら?

気をつけていても、クラッシュをゼロにすることは難しいものです。

もしクラッシュが起きてしまったときは、次のステップで対処しましょう

  1. 止める:無理な活動や運動を中断し、「取り戻そう」とするのをやめます

  2. 刺激を減らす:静かで薄暗い部屋で横になります

  3. 基本ケア:水分補給や服薬など、いつも通りの基本ケアを維持します

  4. 責めない・記録する

    クラッシュはあなたの「失敗」ではありません

    「何が今回の許容量を超えていたのか」という貴重なデータが得られたと考えましょう。「次は時間を半分にしてみよう」「前日を完全休養にしよう」と、次回の調整材料に活かせば大丈夫です

(※激しい胸痛、意識障害、片側の麻痺や言葉が出ないなど、普段のPEMと明らかに異なる強い症状が出た場合は、すぐに医療機関へご相談ください)

さいごに:焦らなくて大丈夫です

ME/CFSの療養生活では、「治すために頑張る」ことよりも、「自分の身体の声を聞き、余力を残して上手にブレーキをかける」ことの方がずっと大切です

余力を残して生活をコントロールできるようになることは、立派な治療のステップです。

当院(こもれびの診療所)では、患者さん一人ひとりの生活環境やお仕事の状況に合わせながら、無理のないペーシングや体調管理を一緒に伴走して考えてまいります。

一人で抱え込まず、日々の小さな変化や困りごとをいつでもお気軽にご相談ください。

(参考ガイドライン)

  • NICE guideline NG206: ME/CFS diagnosis and management (2021)

  • CDC: Strategies to Manage ME/CFS (2024)



医療法人社団徳風会 こもれびの診療所:https://komorebi-shinryojo.com/

電話:03-6806-5457
住所:〒116-0003 東京都荒川区南千住5-21-7-2F(旧日下診療所)
最寄り駅:南千住駅より 徒歩 5 分

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